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執筆者の写真Sonoe Hirabayashi

ワインカントリーの春:瓶詰め作業にまつわるお話


昨今は朝晩冷え込む日が減りこちらカリフォルニアでも本格的な春がやってまいりました。


昨年のこの時期は外出禁止令が発動されてまもなくでしたので、外出して春を楽しむ余裕はほとんどなく春の日差しを楽しむことさえもままなりませんでした。今年は打って変わり比較的低温な冬だったためまばらに気温が上がることがなく、草花が一気に芽生え花を咲かせ今年はさらに風光明媚な春を迎えています。→今年の冬は比較的低温だったため、春先には草花が一斉に芽生えて花を咲かせ、なお一層風光明媚な春を迎えています。


また遅めに降った春の雨により土壌が潤い、しっかりと水分を蓄えた葡萄畑の木々が休眠を終えて芽吹き始めました。コロナウイルス蔓延に追い討ちをかけるようにして発生し、ワイン業界に打撃をもたらした昨年の山火事がまるで夢であったかのように畑の木たちは2021年ビンテージに向けすくすくと成長しています。


昨年2020年ビンテージは私だけでなく長年の経験をもつ栽培家、醸造家たちにとっても大変過酷なビンテージでありました。春先の小雨による干ばつ、初夏の熱波、突然の雷雨によってもたらされた大規模な山火事など、カリフォルニア全土での度重なる災害により葡萄の収穫を諦めた生産者や醸造を諦めたワイン生産者が大半でありました。そんな中ナパやソノマの多くの生産者は多大な被害を受けながらも希望を失わず収穫と醸造を続けました。2018年のビンテージからシャルドネ葡萄を供給してくているスティーブ マサイアソンも勇気ある生産者のうちの一人でした。熟成中は収穫当初心配していた煙による味わいへの影響もほぼなく3月に入りマロラクティック発酵が一気に進み、いよいよシックスクローヴズも7月の瓶詰めに向け資材準備の作業を開始しました。




こちらカリフォルニアでは秋の収穫が終わったあと、早ければ年明け頃に前年のビンテージの白ワインや熟成期間が長めの赤ワインの瓶詰めが始まります。通常はどのワイナリーも長時間におよぶ肉体労働を伴った収穫の時期を避けて新年ごろまでゆっくりと体を休めたのちに、樽熟成をしていた赤ワインのブレンドや白ワインの澱引き作業を始めるからです。大抵の場合はワインメーカーが樽ごとにワインの試飲をし、ブレンドに使用する樽の選抜を行います。その後澱引きや清澄、濾過の作業を経て瓶詰めとなります。


どのセラーの作業も体力勝負なため、小柄な日本人の私には苦手な作業も多くありますが業界で10年の経験を積んできたおかげで大抵のことはこなせるようになってきました。しかし唯一今だに苦手なことがあります。それは瓶詰め作業。


通常皆さんが目にされるワインの瓶の定型容量は750 mlですがその瓶の形状やサイズには定型がほとんどありません。ガラスの色や形状にはじまり口の直径や厚さ、それに使われるコルクの質や長さ、またその上に貼られるラベルの素材やデザインの大きさなどが様々あります。それゆえ事前にしっかりと調査、準備そして確認の作業をすることが大前提となるのですが、瓶詰めの作業当日には予期せぬいろんなことが起こるんです。


例えばそれは以前世話になった友人のワイナリーでのある出来事。通常小規模のワイナリーでは年に数回程度しか使わない瓶詰めの機材を持ち備えているところはほとんどなく、モービルボトラー、つまり移動瓶詰め用のトレーラーを持つ瓶詰め業者に何ヶ月も前に予約を入れて瓶詰め作業をします。大抵の場合はかなり先まで再予約することができないため瓶詰は当日が一発勝負の大事な作業です。友人のワイナリーで瓶詰め作業を迎えたまさに当日、その日は前夜から大雨が降り続け早朝に業者がトレーラーを持ち込み準備を開始したのですが…。用意していた資材を確認し始めたところ前もってオーダーしていた白ワイン用のフォイルが予定していたシルバーでなく、なんと赤色であることが発覚したのです。


とはいえたったそれだけで作業を中止することはほぼ不可能なため、友人は私に向かって突差に“Sonoe、今からフォイル業者のところに行ってシルバーのフォイルを調達してきてくれないか?!”と伝えてきたのです。なんとその日は大嵐で近隣のエリアは大洪水。朝7時に慌てて車を走らせ、通常であれば目的地まで片道1時間半弱のところ洪水により幹線道路が封鎖されてしまったため、お昼すぎにようやく帰還。その日はなんとか無事にシルバーのフォイルをかぶったワインを瓶詰めすることができました。


瓶詰め業者との綿密な作業確認の必要性を痛感したこの出来事のほかにもう一つ、私にとってなんとも苦い経験となった出来事があります。それはワインの顔とも言えるラベル貼りでの事。例年に引き続き今年の7月の瓶詰めにはシックスクローヴズのラベルは赤色の丁子花をモチーフにした横長のデザインを使う予定なのですが、こちらもまたデザインを採用した当時から若干面倒な条件がありました。


ワインボトルの本体の直径は上部でもボトルの下でもほぼ統一と思われがちですが実はそうではありません。某カルトワイナリーで研修していた2011年の収穫時期のことです。その年は雨が長引き収穫が大幅に遅れました。9月終わりまで作業が始まらず葡萄がワイナリーに入ってくるまでひたすら手貼りでのラベル貼りを続けたのですが、ボトルの形状が1800年代のレトロな手吹きの形状になっていたためボトルの本体は上と下では細さや傾きがかなり違う形状だったのです。真っ直ぐに貼ったはずのラベルが斜めに見えてやり直し、違う角度から見るとまた斜めに見えるので再度貼り直すという作業を繰り返し、収穫終わりの頃には私はすっかり手張りのプロになっていました。



そんな経験を生かし、シックスクローヴズで使われる瓶を選ぶ際は横長のラベルがしっかり垂直に貼れるよう真っ直ぐで表面が綺麗な瓶を探すことにしました。ワインメーカーの友人たちに相談して候補の瓶をいくつか見つけ、実際に転がしてみてまっすぐ転がるものを探し出しようやく業者さんを選抜したはずなのですが…。しかし瓶詰め当日にはまたもや予期せぬことが起こります。万全で迎えたつもりのラベル貼り。しかし最初のラベルの張りが弱く空気が混入してしまい、結果的にその場で何十本分ものラベルを剥がしてはまた貼るを繰り返したり、空気をそっと押し出したりと四苦八苦する羽目に。結局ボランティアで助っ人として来てくれた友人のおかげもあってなんとか当日中に無事に200ケースほどの瓶詰めが終了しました。


そんな苦い経験を思い出しつつ、今年も重い腰をあげそろそろ新しい葡萄種や生産者を求め活動を開始します。今年2021年も山火事によるワイン産業への影響の不安は払拭しきれてはいませんが、アメリカ全土でのワクチン接種が拡大するとともに規制が徐々に緩和され、制限付きではありますがこちらワインカントリーでもレストランやワイナリーのテイスティングルームでの屋内営業が段々と再開されるなど、ワイン業界でも明るい兆しが見えてきました。


お陰様で私も2度のワクチン接種を無事終了し、徐々に外へ出かけ始めるようになりワインメーカー達との情報交換もできるようになってまいりました。小規模生産者の友人たちからもファンの皆さんの応援で売り上げもなんとか例年レベルに戻ってきたとの嬉しい声がちらほらと聞こえるようになってきました。


シックスクローヴズも皆様の熱い声援のおかげでこの一年無事に乗り越えることができました。今年のビンテージはどんなチャレンジが待ち受けているのでしょうか!?昨年の経験を生かしながら今年も皆様に喜んでいただけるようさらに上のワイン造りを目指していきたい、そうこころに誓う2021年カリフォルニアでのうららかな春の日です。

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